薬事関係の障害者に係る欠格条項の見直しについて(報告書)
中央薬事審議会常任部会欠格条項検討ワーキンググループ

平成12年12月18日

1.基本的考え方

○ 薬事関係の資格や業の許可等については、医薬品や毒物劇物等の取扱い を誤ると、国民の生命、健康に重大な支障を生ずるおそれがあることから、 これまで各種の欠格条項が設けられているところである。

○ しかしながら、近年、障害者の社会参加の促進に係る国民の理解やハン ディキャップをカバーする技術開発が進んできており、平成11年8月に、 障害者施策推進本部で決定された「障害者に係る欠格条項の見直し」にお いては、「障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し、必 要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止すること」とされ、 「再検討の結果、身体又は精神の障害を理由とした欠格、制限等が真に必 要と認められるものについては、『欠格、制限等の対象の厳密の規定への 改正』『絶対的欠格から相対的欠格への改正』等により対処するものとす る。」とされたところである。

○ こうした状況を踏まえ、薬事制度に関する障害者に係る欠格条項の見直 しについては、平成12年3月の中央薬事審議会常任部会において審議を開 始し、平成12年6月の同部会において、当ワーキンググループを設置し、 検討を進めることとされた。

○ 当ワーキンググループの検討に当たっては、障害者の団体からの意見書 の提出も受け、障害者の社会参加の促進という観点から、また、医薬品等 の特性及び薬剤師等の業務の特性を踏まえつつ、国民の生命、健康を守る 観点から慎重に審議を進めた結果、以下のようにとりまとめたので報告す る。


2.個別の検討

(1)薬剤師関係

〈1〉現状

○ 薬剤師は、薬剤師法第19条に規定する医師の処方せんに基づき薬の調合 を行う調剤のほか、同法第24条に規定する処方せん中に疑義があった場合 の医師への照会、同法第25条の2に規定する患者に対する薬剤の適正使用 のための情報提供などを行う義務がある。

○ これらの業務を適切に行うためには、処方せんを確認した上で、薬の選 定、混合、分包などを誤りなく行う必要があるとともに、患者の状況を的 確に把握し、患者や医師などと適切な意思の伝達を行うことが必要である ことから、欠格条項が設けられている。

〈2〉検討の視点

○ 障害を有する薬剤師がこれらの業務を行う場合、今日では、FAX、手 話等の代替手段の活用を図ることにより、一定の対応ができると考えられ るものがある一方、代替手段を活用した場合であっても円滑な対応が困難 と考えられるものもある。

○ したがって、国民の健康を守る上で、薬剤師としてのすべての業務が円 滑に行えなければ免許を付与しないこととすべきか、本質的な業務を円滑 に行えるのであれば免許を付与することとすべきかという点について検討 を行う必要がある。

○ 薬剤師としての「本質的な業務」については、薬剤師法第19条に規定す る独占業務である「調剤」を「薬剤の調製」と解すべきか、「服薬指導や 情報提供」という薬剤の調製に付帯する業務も含むものとして解すべきか という議論もあったところであるが、これまで「調剤」という行為を「特 定人の特定の疾病に対する薬剤を調製することをいうもの」との解釈を前 提として、欠格条項を設けていたという趣旨にかんがみ、当該業務を行う ことができるか否かに着目して検討を進めたものである。

○ なお、薬剤師の業務については、薬剤師法に規定するこれらの業務に限 らず、病院における病棟業務、製薬企業における医薬品情報の収集や提供 等多岐にわたるものとなっており、こうした業務を行うことについても併 せて考慮する必要がある。

〈3〉見直しの方向

 「目が見えない者」「耳が聞こえない者」「口がきけない者」について
(「精神病者」については(3)において別途検討。)

○ 薬剤師法第19条に規定する医師の処方せんに基づく調剤については、 「耳が聞こえない者」「口がきけない者」については特段の支障はないも のと考えられるが、「目が見えない者」については円滑に行えない場合も 考えられる。

○ また、これらの者については、薬局、病院等において業務を行うに当た って、処方せんに対する疑義照会や患者に対する服薬指導などを円滑に行 えない場合も想定される。

○ しかしながら、調剤や、処方せんに対する疑義照会や患者に対する服薬 指導などについては、いずれも、医師や患者等の理解や、こうした者を雇 用した薬局、病院等の業務配置の工夫、新規の代替手段の活用等により解 決できるものであり、今回の欠格条項の見直しの趣旨や障害者の社会参加 の促進に係る国民の理解が向上してきている状況を踏まえると、薬剤師免 許を付与する段階において、その門戸を閉ざすべきものではない。

○ したがって、これらの者については、一律に絶対的欠格事由を存続させ ることは不適当であり、その障害の状況や代替手段の開発状況等を踏まえ、 薬剤師の業務を行うことができるか否かについて個別に判断すべきもので ある。

○ なお、「耳が聞こえない者」及び「口がきけない者」については、代替 手段の活用等により、薬剤師の業務を行うに当たって特段の支障はないも のと考えられる。

○ また、薬局、病院等においては、障害を有する薬剤師に十分配慮した職 場環境を整備させることが必要であるとともに、薬剤師の免許を付与され た者においても、患者に保健衛生上支障が生ずることのないよう、十分留 意しつつ業務を遂行することが必要である。

○ なお、病院における病棟業務、製薬企業における医薬品情報の収集や提 供等の業務については、薬剤師免許の欠格条項の見直しとは直接的には関 連性を有しないものであるが、同様に、病院等における職場環境等への配 慮が求められるものである。



(2)毒物及び劇物取締法関係

〈1〉現状

○ 特定毒物研究者は、学術研究のため特定毒物を製造又は使用することが できる者として、都道府県知事の許可を受けた者であるが、特定毒物は、 毒物のうちでも毒性が特に強いことから、他の一般毒物のように営業とし ての製造、輸入、販売を規制するにとどまらず、毒物に関し相当の知識を 持ち、かつ、学術研究上特定毒物を製造し、又は使用することを必要とす る者に限って、こうした行為を認めている。

○ また、毒物劇物営業者(毒物又は劇物の製造業者、輸入業者又は販売業 者)は、毒物又は劇物を直接に取り扱う製造所、営業所又は店舗ごとに、 専任の毒物劇物取扱責任者を置き、毒物又は劇物による保健衛生上の危害 の防止に当たらせなければならないこととされており、毒物劇物取扱責任 者の責任において、毒物劇物の製造、販売、貯蔵、運搬等、実際の取扱な どの安全確保を行うものである。

○ これらの業務を適切に行うためには、日常の管理業務において危害防止 措置の立案、実施の確認を行うほか、毒物又は劇物が飛散し、漏れ、流れ 出等の事故等や盗難、紛失といった緊急時に対応して的確、迅速な指示を 与え、危害の防止に当たる必要があることから、欠格条項が設けられてい る。

〈2〉検討の視点

○ これらの業務については、薬剤師のような「資格」ではないことから、
障害を有する者が業務を行う場合、当該研究所、製造所等全体として安全
性の確保措置が講じられる場合には、一定の対応ができるのではないかと
いう考え方がある一方、毒物劇物の特性にかんがみれば、このような安全
性確保措置では不十分であるとの考え方もあることから、国民の健康を守
る上で、当該研究所、製造所等全体として安全性の確保措置が講じられる
ことにより障害を有する者がこれらの業務を行うことが適当か否かという
点について検討を行う必要がある。

〈3〉見直しの方向

 「目が見えない者」「耳が聞こえない者」「口がきけない者」について (「精神病者」については(3)において別途検討。)

○ 「目が見えない者」、「耳が聞こえない者」、「口がきけない者」及び 「色盲の者」については、特定毒物研究者、毒物劇物取扱い責任者のすべ ての業務を円滑に行うことは困難である。

○ しかしながら、これらの業務については、薬剤師のような「資格」では ないことから、障害を有する者がこうした業務を行う場合、その者と同一 の研究所、製造所等に勤務する他の者が危害防止措置の実施等の業務を代 替すること、研究所、製造所等の構造設備がこうした者が業務を行うこと ができるように整備されていること、FAX、手話等の代替手段の活用を 図ることなどにより当該研究所、製造所等全体として安全性の確保措置が 講じられている場合には、一定の対応が可能であることから、今回の欠格 条項の見直しの趣旨や障害者の社会参加の促進に係る国民の理解が向上し てきている状況を踏まえると、法的に一律に禁止すべきではない状況にな ってきているものと考えられる。

○ また、毒物及び劇物取締法においては、同法に違反する行為があったと き(当該研究所、製造所等において毒物又は劇物による保健衛生上の危害 の防止の措置が講じられていないとき)は、登録又は許可の取消、業務の 停止を命ずることができることとされている。

○ したがって、「目が見えない者」、「耳が聞こえない者」、「口がきけ ない者」及び「色盲の者」の欠格条項については廃止し、こうした者が、 特定毒物研究者及び毒物劇物取扱責任者として業務を行う場合には、それ ぞれの業務を適切に行うことができるような研究所、製造所等の構造設備 の基準を定めることが適当である。


(3)精神病者関係

〈1〉現状

○ 薬事関係制度においては、医薬品や毒物劇物等その取扱いを誤ると、国 民の生命、健康に重大な支障を生ずるおそれがあるものであることから、 毒物劇物取扱責任者については絶対的欠格事由が、その他の資格等につい ては相対的欠格事由が設けられているところである。

〈2〉検討の視点

○ 薬事関係制度において規定する「精神病者」の概念については、精神保 健福祉法に規定する「精神障害者」と同様の概念、すなわち医学的な障害 概念を表す規定とされているが、現行の「精神病者」という一律の概念で はなく、それぞれの業務を適切に行うことができるか否かという観点から、 欠格条項の見直しについて検討する必要がある。

〈3〉見直しの方向

○ 現行法に規定されている「精神病者」という概念については、その程度 に関わらず一律に欠格条項の対象とされているが、医薬品や毒物劇物等の 特性を踏まえつつ、それぞれの業務を適切に行うことができるか否かとい う観点から、見直すべきものである。

○ 現在、毒物劇物取扱責任者の「精神病者」に係る欠格事由については、 絶対的欠格事由とされているところであるが、「精神病者」についても、 その程度はさまざまであることから、相対的欠格事由とすることが適当で ある。また、毒物劇物取扱責任者以外の薬剤師の免許や薬局の許可等にお いて相対的欠格事由とされているものについても、他の資格等における見 直し状況を踏まえつつ、現行の「精神病者」という一律の概念を欠格事由 とするのではなく、それぞれの業務を適切に行うことができるか否かとい う観点から欠格条項を見直すこととする。

○ なお、毒物及び劇物取締法第15条において、毒物劇物営業者が、精神 病者に対して毒物及び劇物を交付してはならないこととされているところ である。これは、毒物劇物営業者の交付制限であることから、障害者に対 する欠格条項には当たらないものであるが、「精神病者」に係る欠格条項 の見直しを踏まえ、併せて見直すこととする。


(4)その他

○ いずれにしても、障害者に係る欠格条項を存続させる場合には、個々の 事例に当たり、免許や業の許可等を与えないとの判断を行う場合には、申 請者から意見を聴取するなどの慎重な手続を設けることを検討することが 必要である。


(参考)

表: 薬事関係の「障害者に係る欠格条項」について(※掲載省略)

表:中央薬事審議会常任部会「欠格条項検討ワーキンググループ」メンバー表
内山充, (財)日本薬剤師研修センター理事長,中薬審常任部会長
井村伸正, 北里大学薬学部教授,中薬審毒劇部会長
岡本彰, (社)日本薬剤師会副会長,中薬審常任部会委員
齋藤文昭, (社)日本病院薬剤師会常務理事(焼津市立総合病院薬剤科長)
三輪亮寿, 三輪法律事務所(弁護士)

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