2004年 9月 20日 紀尾井ホール 14時 開演
『響き合う音と心』
委嘱初演作品『巡礼』について
作曲者 七瀬 あゆこ 氏 のメッセージ

 近年縁あってフルート関係の公演や楽譜出版にかかわってまいりましたが、本公演もフルーティスト佐々木 真さんを中心とする「みゆずメソン」の主催で、シリーズ通算17回目の今回ご一緒する機会を頂きました。臨床心理学者河合隼雄さんの講演とフルート演奏によるこの『響き合う音と心』シリーズは、紀尾井ホール800席が毎回ほぼ完売するという、クラシックスタイルでは数少ない人気公演です。河合隼雄さんがアマチュア音楽家としてフルートを嗜まれることをご存知の方も少なくないと思いますが、佐々木 真さんは河合さんのフルートの師匠で、毎回趣向を凝らして師としての愛情あふれるステージを、ご自身の素晴らしい演奏とともに展開されています。

 私は数年前から実は河合隼雄さんの著作の大ファンなのですが、河合さんには芸術や研究に携わる人々に「信者のような」ファンが多いと聞き、さもありなんと思っています。とくに河合さんの日本文化論を読んでいると、恩師小泉文夫が生きていたらきっと日本人の行方をこのように示したであろうと思われ、胸が熱くなります。 河合さんは京大在学中にフルートを始められ、しばらく中断してから、58才の時に佐々木さんらに師事してレッスンを再開されました。「くるたのしい」というその実感は、音楽家すべてのみならず、人間にとっての人生そのものの実感なのかもしれませんね。

 先日第1回目の練習があり、初めて音出しをしましたが、河合さんは文化庁業務の多忙の中、とても熱心に準備をされて来て、ガッツと集中力で練習をこなされたのには感激を通り越して驚きました。河合さんは実際お会いすると、大柄な体躯に反して予想以上にナイーブな印象を受けるのですが、「篠山の感じが良く出てますねー」と少しはにかみながら言ってくださいました。今後練習とともに、いろいろな対話や発見を重ねながら、本番はきっと密度の濃いパワーあふれるものになると期待しています。

 なおここだけの話ですが(?)、アンコールでは私がフルート版編曲を発表しているアメリカの作曲家W.ギロックの「シャンペン・トッカータ」(フルート2本+チェロ+ピアノ連弾)を私のアレンジで演奏しますので、ギロックファンの方、どうぞお楽しみに!

作品メモ

タイトルは「巡礼」、5曲の小品からの組曲です。
城跡にて / 樹のうた / 呪文 / 水鳥の夢 / ヒルコ幻想

 近頃思うに、人生はもしかしたら、その人にとって意味のある場所(トポス)を巡礼する旅なのではないかと・・・。人との出会いもそんな巡礼の一種なのだと思います。初演メンバーに河合隼雄先生がおられるということで、先生の生地<丹波篠山>に出かけてしまいました。篠山は小ぢんまりした瀟洒な城下町で、本当に素敵な場所でした。初めて訪れた気がしないような親しみをおぼえ、来て良かったと心から思うことができました。

 組曲は篠山にこじつけるつもりはないのですが、やはりそこからイメージをたくさんもらいました。「呪文」は、わらべうたのフレーズも使って、ややアレンジ風、フルート2本のみの編成です。「ヒルコ」は日本神話に登場する不思議な神で、河合ファンなら「ドキッ」とする一言ですが、あえて挑戦してみたくなりました。